和歌山家庭裁判所妙寺支部 昭和61年(家)171号 審判 1987年3月30日
申立人 小松秀行
相手方 木下登美子
主文
相手方は申立人に対し、金135,276円を支払え。
理由
第1申立ての趣旨及び実情
申立人と相手方は、昭和59年2月2日相手方が家出することにより別居状態となり、昭和61年6月19日離婚の裁判が確定したことにより離婚するに至つたものであるが、相手方が右家出以降申立人に生活費を渡さないため申立人は同59年10月6日当庁に婚姻費用の分担を求める調停を申立て、右調停の過程で調停委員会の勧告により、同60年3月から同61年6月までの間相手方から月額5万円の送金を受けたが、右金額のみでは婚姻費用の分担金として不足すると考えるので、相手方に対し、相当額の支払いを求める。
第2当裁判所の判断
1 家庭裁判所調査官○○○○○、同○○○○作成の調査報告書及び本件記録並びに当庁昭和59年(家イ)第8号夫婦関係調整申立事件の記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は、昭和39年1月18日婚姻し、長女光子(昭和40年1月12日生)、長男忠幸(昭和42年6月15日生)をそれぞれもうけたが、同56年ころから、申立人がとるに足らないことで相手方を責めたり、同人や子供らに対し粗暴な振舞いに及んだりするため、夫婦関係が悪化し、意思の疎通を欠く状態になり、その後相手方の家出や申立人の神経科病院への入退院などを経て同59年2月2日、申立人が相手方に対し、ささいなことで暴力を振つたのを契機として相手方が再度家出し、以後完全に別居状態となつた。
(2) その後相手方は、昭和59年2月9日、当庁に夫婦関係調整事件(昭和59年(家イ)第8号)を申立てたが、同年5月24日右調停事件が不成立となつたため、和歌山地方裁判所妙寺支部に離婚等請求事件(昭和59年(タ)第12号)をおこし、同60年1月30日、相手方の請求を認容し、長男忠幸の親権者を相手方とする判決が下され、これを不服とする申立人の控訴も棄却されたため、右判決は同年6月19日確定し、同日付をもつて申立人と相手方は離婚することとなつた。
なお本件は、同59年10月6日申立てられ、同60年9月1日調停不成立となり、本件審判手続に移行した。
(3) ところで、相手方は、昭和26年4月○○○町役場に就職して以後今日に至るまで右役場に勤務しており現在は産業課専門員の職(管理職)にあり、後記認定のとおり安定した給与所得があるのに対し、申立人は昭和52年ころから、体調の不調を訴えて不就労であり、したがつて前記別居期間中全く収入を得ていない。
(4) 以上の認定事実に照らすと、前記別居が開始された昭和59年2月から、離婚の裁判が確定した昭和60年6月までの間においては、右別居に至つた経過はともかくとして、相手方は申立人に対し、収入に相応した生活を保障するいわゆる生活保持の義務を負つていたというべきであり、前記離婚の裁判において、財産分与等でこの点についての判断が示されていない以上、相手方は右期間における申立人の生活費として相当額の婚姻費用を分担する義務があるものといわなければならない。
2 そこで右分担額をいわゆる労研方式を参考として検討する。
(1) 基礎収入
相手方の給与取得から所得税、地方税、共済組合掛け金を控除する他、職業費として年間総所得の30パーセントを、住宅費として生活保護基準の住宅扶助基準限度額(昭和61年度和歌山県3級地月額22,300円)を、長男忠幸の教育費として授業料等年130,600円を(但し昭和59年分については修学旅行費53,000円分も含めて、183,600円を)、それぞれ控除する。
なお、相手方の母は、婚姻時から相手方と同居し、相手方が家を出る際に行動を共にし、現在も相手方と同居している。そこで相手方の母の年金収入280,000円を相手方の給与所得に加え、その生活費を含めて算出することとする。
(2) 消費単位
申立人が100(55歳・男・無職)、相手方が95(51歳・女・事務職)、長男が95(高校生・男)但し、昭和61年4月以降については105(大学生・男)、長女が100(看護学院生・女)但し昭和61年4月以降については看護婦として就職したので、扶養対象から除外する、相手方の母が65(78歳・主婦)となる。
(3) 以上の事実から相手方の分担額を具体的に計算すると以下のとおりとなる。
① 昭和59年2月~12月
ア 基礎収入
相手方の給与所得 5,676,248円(源泉徴収票参照)
相手方の母の年金 280,000円
(各種控除)
所得税 210,700円(源泉徴収票参照)
地方税 146,850円(特別徴収税額通知書参照)
共済掛金 379,498円(源泉徴収票参照)
職業費 1,702,874円
住宅費 267,600円
教育費(修学旅行費を含む) 183,600円(相手方提出資料参照)
5676248+280000-210700-146850-379498-1702874-267600-183600=3065126
3065126÷12=255,427円
イ 当事者の消費単位
申立人(60歳未満 既婚男子 軽作業以下)100
相手方(60歳未満 既婚女子 中等作業)95
長男(高校生 男子)95
長女(大学生-看護学院生 女子)100
相手方の母(60歳以上 主婦)65
ウ 分担額
255,427円×100/(100+95+95+100+65)=56,137円
エ 昭和59年2月から12月までの分担額
56,137円×11=617,507円
② 昭和60年1月~12月
ア 相手方の給与所得 5,909,650円
相手方の母の年金 280,000円
(各種控除)
所得税 224,700円
地方税 178,000円
共済掛け金 467,589円
職業費 1,772,895円
住宅費 267,600円
教育費 130,600円
5909650+280000-224700-178000-467589-1772895-267600-130600=3148266
3,148,266÷12=262,355円
イ 当事者の消費単位
①のイに同じ
ウ 分担額
262,355円×100/(100+95+95+100+65)=57,660円
エ 昭和60年1月から12月までの分担額
57,660×12=691,920円
③ 昭和61年1月~3月
ア 基礎収入
相手方の給与所得 2,943,172円
相手方の母の年金 140,000円
(各種控除)
所得税 154,755円
地方税 94,300円
共済掛金 242,874円
職業費 882,951円
住宅費 133,800円
教育費 65,300円
2943172+140000-154755-94300-242874-882951-133800-65300=1509192
1,509,192円÷6=251,532円
イ 当事者の消費単位
①のイに同じ
ウ 分担額
251,532円×100/(100+95+95+100+65)=55,281円
エ 昭和61年1月から3月までの分担額
55,281円×3=165,843円
④ 昭和61年4月~6月
ア 基礎収入
③のアに同じ
イ 当事者の消費単位
長女光子が、4月から○○市民病院に看護婦として就職したので、相手方の扶養対象から除外する。そして長男が、専門学校4年に進級した。
申立人(60歳未満 既婚男子 軽作業以下)100
相手方(60歳未満 既婚女子 中等作業)95
長男(大学生 専門学校4年 男子)105
相手方の母(60歳以上 主婦)65
ウ 分担額
251,532円×100/(100+95+105+65)=68,912円
エ 昭和61年4月から6月までの分担額
68,912円×3=206,736円
⑤ 以上昭和59年2月から、昭和61年6月までの相手方の分担額の合計
617,507円+691,920円+165,843円+206,736円=1,682,006円となる。
3 ところで、相手方は、申立人に対し、調停委員からの勧告を受け入れ、昭和60年3月から同61年6月までの間月額50,000円の生活費を送金していたほか、別居期間中新聞代、ガソリン代等申立人の様々な生活経費を負担しており、その合計額は1,546,730円となる。
4 したがつて、昭和59年2月から同61年6月までの間に相手方が分担すべき婚姻費用の総額は、2の合計額である1,682,006円から3の合計額である1,546,730円を差し引いた135,276円となる。
第3、結論
以上によれば、相手方は申立人に対し、過去の婚姻費用の分担金として金135,276円を即時に支払う義務があるというべきであり、この結論を左右するに足りる資料は存在しない。
よつて主文のとおり審判する。